1ヶ月検診時、母乳だけでこどもを育てているのはどのくらい?

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いろいろな事情でミルクで育児する必要のある人がいます。

日本なら、
HIV感染をしている人やATLの原因となるHTLV-1に感染している人などで、
母乳をあげないことで起きうる問題と
母乳を通しての感染のリスクを秤にかけて、
ミルクを選んでいる人。

母乳が出始めるまでにお薬のようにミルクを使用する必要がある人。

また、親元を離れざるを得ない子。

抗がん剤など赤ちゃんに有害性が予想できるお薬を使う人。

後、悲しいけれども、
産科医や小児科医、保健師といった、母子保健支援スタッフの、
母乳に対する知識や理解が少なすぎて、
母乳を出すための方法を知らない親子たち。。。



そういう中、文末に引用した読売新聞の記事によると

>厚生労働省の2005年度の調査では、産後1か月時の
>完全母乳率は全国平均が42・4%だった

とのことです。




あくまでも、私が集計してきた経験からですが、
1ヶ月検診時での母乳だけで育児する母親の割合は、
以下のように考えています。
(今まで働いた施設で数えた
母乳だけで育てている人数の統計からの印象です)


4割
 母子別室などで母乳分泌を妨げる産後の生活をしても、
 母乳のみで育児できる人

3割
 産後すぐからの母子同室を行うことで
 母乳のみで育児できる人

2割
 母乳分泌がゆっくりだとか、赤ちゃんが直接飲むのに、
 ちょっと余計に練習や工夫がいる人で
 母乳育児の知識を持つ人の応援が必要な親子

1割以下
 主に原発性(生まれながら)の母乳分泌不全など、
実際に母乳が少なくて、
 ミルクの力を借りたほうが生活がしやすい人
 (授乳回数が一日20回とか、一日の搾乳回数が10回以上とか、
  を、苦痛に思わずこどもに母乳をあげたいと思える人も
  いるけれども、やはり
  母乳以外のことが出来ないことを辛く思うのも当然で、
  ミルクの使用や併用によって 、赤ちゃんの健康と、
その人たちに時間の余裕を届けられることも大切です)


引用さた読売新聞の記事では

>調査は、医師、助産師らで作る同会が昨年11、12月、県内で産科、
>小児科を持つ延べ190施設にアンケート調査し、同49施設から回
>答があった。

と、みやぎ母乳育児を勧める会がとったアンケートでは
1/4くらいの施設しか答えていないので、
考えようによれば、母乳育児に興味の有る施設だけが、
アンケートに返事を提出したかも知れません。
それでも退院時に6割強というのは、赤ちゃんのWell-beingに、
随分と目が向けられてきた状態であることを感じます。

4割の母乳だけで育児する親子を
6割にするのは、本当に大変なのです。
(2016年1/30追記:
完全母乳という言葉は、統計の言葉です。
日常では「母乳だけ」という言葉が、より好ましいです)


ただ、これは試験ではないので
10割ならOKと言うものでは決してありません。

健全な産後の生活を支援している病院ならば、
退院時の完全母乳率は6-7割を目標としていいかと思います。

そして、その時に母親に知識や技術がきちんと伝わっていれば、
1ヶ月検診時もほとんど割合は落ちないか、または、
上昇していきます。





_______________________________
_______________________________
この先は、ミルク屋さんや、
ミルク会社さんの情報をこどもの育児情報源にしているスタッフに、、、


母乳をあげたいのに、不要なミルクをあげている人たちの多くは、
国際規準に違反したミルク会社さんの営業の
悪影響を受けていることが少なくありません。


国際規準につきましては、
NPO法人日本ラクテーションコンサルタント・協会
http://www.jalc-net.jp/

の資料ダウンロードでご確認できます。
「「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」 (WHO,1981)の要旨」




ミルクの成分はかなりよくなりましたが、
ミルクの売り方は相変わらず、モラルがないなあ、と、
思わざるを得ないシーンが多々あります。

もし、ミルク会社さんの営業さんがこの記事をごらんになった時、
会社の営業成績を上げるために行っていることが、
赤ちゃんの健康にどのような影響を与えているかを
冷静に考えていただけたら、とねがっております。

「母乳も大切ですけど、ミルクも今はよくなっていて
 母乳にかなり近づいてきているのですよ」と
おっしゃると、それ自体がミルクを美化している、
国際規準に反している言葉なのはご存じの通りです。
残念ながら、細胞成分やホルモン、免疫成分など、
ミルクに入れる事の出来ないものが母乳に入っている
事実は、この先も変わらない部分だからです。

ミルクで育児している人を安心させるための言葉としては
「牛乳や重湯、エバミルクなどより遙かに安全です」
と自信を持って伝えてあげて下さい。


残念なことにミルクが必要な時の説明が乳業さんの解説では
誤っていることが珍しくありません。
母乳育児を希望する母親が必要以上のミルクを使う事で、
母乳を飲ませられる期間が短くなることを初めとした
母子への影響を説明されているでしょうか。
溶かした時点で70度以上が保てるお湯で調乳する理由を、
お母さまたちに説明されているでしょうか。

おそらくはミルクの「売り上げを上げる」ためには、
お母さん達に伝えたくない事実だと思います。

良質で安全なミルクを作り続けるためには
資金も時間も必要なことは理解出来ます。
少子化の時代に母乳だけで育てる人が増えることが
ミルクの売り上げの低下に繋がるのは明らかです。

そのお金をどう調達するかと言う問題と、
赤ちゃん一人一人がいかに健康に育つかとは別の問題として
同じフィールドで収支計算をしないでいい、
お金の流れに関する仕組みは会社だけでなくて
社会全体で考える必要があるのかもしれません。


ミルクで赤ちゃんを育てることを選択した
お母さまたちの赤ちゃんにとっては
ミルク(日本では乳児用調製粉乳)は安全で大切なお食事です。

一方では母乳を赤ちゃんにあげたいお母さまが
使う必要のあるミルクは食事というよりも、
赤ちゃんの健康を守るために必要な
「お薬」だとして扱っていただけたらと私はいつも考えています。

ミルクで育てているお母さんの中には
ご自身の赤ちゃんが薬で育っていると感じる事に
悲しく思うことを伺うことがあります。

ミルクで育児する場合には
ルールに沿って保存・調乳・使用されたミルク
は赤ちゃんにとって安心で安全なお食事です。


一方で母乳は簡単に出る量が
減ったり止まったりする人がいます。

その人達が母乳を出し続けるためにはいろいろな
方法やコツがあるのですが、必要なミルクだけを使うことは
とても重要なポイントになります。
母乳で赤ちゃんを育てることを希望する母親にとっては
ミルクとは赤ちゃんの健康を守るお薬、
またはツールと考えて扱うことで母乳を出し続けることが
より容易になります。


最初からミルクでの育児を希望する人と
母乳を上げたかったのにミルクで赤ちゃんを育てることに
なってしまう人とでは立場も気持ちも全く別なものです。

母乳で赤ちゃんを育てたいけれども、
赤ちゃんを健康に育てるためにミルクを必要とするお母さま
というのは一定数どうしても存在します。
その方達が最低限の回数のミルクの調乳の操作ですみ、
長く母乳を上げるためのケアを行うための、
新しい方法や情報は今も次々と生まれつつあります。

さらにはそのような希望と違う育児をする人を
どのように減らす事が出来るかは、
産院や地域で関わる保健医療の専門家の
技量や知識にも大きくかかっています。

それは妊娠中やお産の前後、乳児健診で関わるスタッフが、
新しい情報を日々学んでいるかどうかでも、
変わることのできる部分ではないでしょうか。




(何カ所か追記、書き直しました:
2016年1/30、2016年5/13)


参照記事
出産直後「母乳だけ」65% : 宮城 : 地域 : YOMIURI ONLINE(読売新聞
↑リンク切れです。
 More以降に、引用しています。




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おしらせ:
平成22年4月から活動拠点を松山市から
香川県高松市に移動しましたm(_ _)m
同じ思いでお産を見守る助産師さんとの出会いも
あったらステキだなあ、と思っております。








More 元記事

出産直後「母乳だけ」65%   NPO調査・全国平均より高水準
 出産直後に自分の母乳だけで赤ちゃんを育てる母親が県内は約65%
に上り、上昇傾向にあることが、NPO法人「みやぎ母乳育児をすすめ
る会」の調査で分かった。全国的にも高い割合という。

 母乳で育てることにより、赤ちゃんの免疫が高まり、母子が精神的に
安定する。子供が将来、生活習慣病になる危険性が低いことも知られて
いる。近年は、出産直後から母親と乳児を同室にして、いつでも母乳を
与えられるようにする施設が増えている。

 調査は、医師、助産師らで作る同会が昨年11、12月、県内で産科、
小児科を持つ延べ190施設にアンケート調査し、同49施設から回答
があった。

 それによると、出産直後に母乳だけで乳児を育てる「完全母乳」の母
親は、1999人のうち1296人と、64・8%を占めた。2005
年の前回調査に比べ、4・1ポイント上昇した。

 母乳と人工ミルクを併用する母親も含めると、1983人(99.2%)
と、ほとんどを占めた。ミルクだけとの回答は0・8%にとどまった。

 1歳健診時でも、完全母乳の母親は、回答した117人のうち65人
と、55・6%に上り、前回の28・9%を大きく上回った。

 単純比較できる全国的なデータはないが、厚生労働省の2005年度
の調査では、産後1か月時の完全母乳率は全国平均が42・4%だった。
本県の母乳育児の割合はかなり高いと言え、同会は「特に仙台圏の産科
施設で母子同室の取り組みが盛んなためだろう」とみている。実際、出
産直後の完全母乳率を県内の地域別にみると、仙台市で78・7%と高
く、県北は46・6%、県南は55・8%にとどまった。

 同会の堺武男理事長は「医学的には早期に離乳する必要はなく、自然
に卒乳するのを待てばいい」と話している。

(2010年5月26日 読売新聞)

Commented at 2010-05-31 19:15 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ろわぞう at 2010-05-31 22:12 x
BFHで出産しました。
1ヵ月健診で再会したお母さんたち、なんと全員が完母でした。
反対に、出産2日目から昼間のみ同室、3時間置きの授乳(それ以外に授乳すると「赤ちゃんを疲れさすなんて!」と怒られる。)授乳量を測って「足りない」分をミルクという産院で出産した友人は、1ヵ月健診で彼女だけが母乳で授乳。他のお母さんは全員が産院でミルクを飲ませてたそうです。
正しい知識が広く共有されるようになればと願わずにはいられません。
Commented by みーしゃ at 2010-06-01 17:37 x
お久しぶりです。
最近左側の授乳の時に痛みがあります。最初は乳首の一部が紫色内出血みたいになっていたのですが今はかさぶたになっています。ただ内出血みたいな所とかさぶたの位置は違う所でかさぶたの大きさもとても小さいものです。でも今日は授乳をしていなくても痛みがあります。とても長い時間授乳していることもあり(1時間とか)おっぱいをはなさないので引っ張って外していたのが原因でしょうか?
Commented by Dr-bewithyou at 2010-06-02 14:36
2010-05-31 19:15 鍵コメさま>
応援をありがとうございます。

母子同室があるから矢野産婦人科を選んだママがいる、と伺って、
頼もしいお母ちゃんがこうやって増えて行くことを、
うれしく感じました(*^^*)

現在、私が勤務しているクリニックは、まだ
昼間だけの母子同室です。

一日中赤ちゃんとママが離れずにすむことを
期待しているママがいるんだ、と思うことで、
母子同室に向けて何が出来るか、改めて考えてみたいと思いました。

ありがとうございます(*^_^*)
Commented by Dr-bewithyou at 2010-06-02 14:47
ろわぞうさま>
BFHだから味わえる幸せがありますよね。

でも、同時に
「ミルクも足してくれない」
「赤ちゃんが泣いて辛いのに一晩中預からされた」と、
恨み辛みばかりが重なるママもいますよね。
(おそらくはママがそう思う時には、
 そばに、そう思うスタッフや家族がいるのでしょうけど)

カンガルーケアのガイドラインにもあるのですが、
「赤ちゃんが中心である」と言う視点が
まだまだ普及していないことも原因なのでしょうね。

赤ちゃんが快適でいられるために何が出来るか?と考えるか、
お母さんが快適ならば結果として赤ちゃんは快適なはずだ、と、
考えるかの転換期は、今、始まりかけたのでしょうね。

ろわぞうさまの、楽しい思い、幸せな思いが、
後輩ママに伝わって行きますように(*^_^*)
Commented by Dr-bewithyou at 2010-06-02 14:57
みーしゃさま>
痛いのは辛いですよね。

>とても長い時間授乳していることもあり(1時間とか)おっぱい
>をはなさないので引っ張って外していたのが原因でしょうか?

よくお子様を観察なさっていますね。
私はさらに飲みにくいから1時間くらいかけて授乳したかもなあ、と、
実際に見ていませんから確信は持てないながらに思いました。

こういう時、考えられるのは、
赤ちゃんの体重が増え、身長が伸びたために、
ポジショニングとラッチオンとに無理が生まれたのではないか、と
いうことです。

>>>続く
Commented by Dr-bewithyou at 2010-06-02 14:58
>>>続き
赤ちゃんのカラダはねじれていませんか?
赤ちゃんが左のおっぱいを飲む時、左に寄りすぎて、
ちょっとうつむき加減になっていませんか?
赤ちゃんの体でなくて頭をぐいっと引き寄せていませんか?
(赤ちゃんは頭を触られるのを嫌う子が多いです)

授乳のときに赤ちゃんの下顎はおっぱいに触れている(または、
埋もれている)くらいくっついていますか?

そこをチェックしても問題がない時(気付かない時も含めて)、
赤ちゃんの口に白い苔が生えたようになっていないかも、
確認が必要です(赤ちゃんのいわゆる鵞口瘡の原因は、
カビ、つまり真菌なのです)。
もしそうならば、赤ちゃんの治療がまず必要になります。

痛みは、かならず取れるので工夫してみてくださいね。
飲ませる前にシャワーや蒸しタオルで乳首を温めてみると、
飲ませやすいようです。お大事になさいませ(*^^*)
Commented by HIV家庭用検査 at 2013-08-30 14:18 x
母乳は、生まれたばかりの赤ちゃんのために十分です。自然医学のすべての種類と結合されます。素晴らしい記事をありがとう。
by Dr-bewithyou | 2010-05-31 18:13 | 応援メッセージ | Comments(8)

赤ちゃんとのつきあい方の情報メモ。母乳育児支援(おっぱいライフ応援)をしている産婦人科医・IBCLC 戸田千のブログです♪ 下方の「ブログの説明」に利用上の注意もありますので必ずご覧になってください。


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