今日は、ちょっと窮屈なお話
2005年 07月 16日
何故窮屈かと言いますと、赤ちゃんとのつきあい方、と言う視点でなくて、「ミルクはこんなに困った問題を持つから、母乳で子供を育てたほうが好ましくありませんか?」という視点だから。おっぱいが母子愛着形成に大きな役割を果たすと言う視点を私が持てるようになったのも最近のことですが、その以前はこの本のミルクの問題点から見渡す視点ばかりで母乳育児を指導していたものです。
目次は以下のようになってます。
第1部 母乳育児の信仰と慣習(世界の母乳育児の風習、乳母による養育、代理授乳、そして治療薬としての母乳)
第2部 奇跡の食物・薬としての母乳(ウシの乳はウシのためのもの、人工栄養)
第3部 母乳の経済学—企業の発展と政府の政策(世界における人工乳の販売状況、女性と仕事)
と言うように、大切な情報がつまってます。なので育児支援をする方には是非、目を通して欲しい一冊です。母乳への信仰というは母系社会では普通に有って、月の女神のダイアナは無数の乳房をもった像が残っていますし、おっぱいを一杯出してくれる神様への信仰と言うのも、今日のように安全で母乳に入っている成分が随分と追加された人工乳が出てくるまでは切実な思いが有ったと思われます。
それが、何故安全な人工乳が生まれたことがお母様方の利益になって無いのか、と言う説明をしている本です。
人工乳が昔は、コンデンスミルクの様な牛乳を煮詰めただけのものであったり、ほ乳瓶その物に問題が有ったり、水に問題が有ったり、中々凄まじい歴史を持っていたそうです。それがまだ100年も経たない最近の話。最近のミルクが随分と安全になったとはいえ、日本でも「ヒ素ミルク」を始めとした問題を持つミルクがありましたが、どれほどのミルクが沢山発売禁止になってきたか、と言うことも書かれています。
発売当初は安全、と思っていたものが、時間の経過とともに危険性が明らかになる。商業製品であるためにそのような悲劇が繰り返された歴史なのだと。それに比べると、母乳というのは人類の歴史100万年とも200万年とも言われる長い時間、ずっと脈々といのちを支えてきたものと言う点では、信頼できるものだなあと最初この本を読んだときには思ったものです。
またこの本には書いてないことですが、最近も滅菌されて発売されているはずのミルクに「エンテロバクターサカザキ」という細菌が混入していることがあるために、調乳は必ず熱湯(業者の指導は80℃以上)を用いること、という注意書きが出たのですが、牛乳そのものの細菌混入に関しては仕方ない、という思いで見ていましたが、世の中には滅菌しないでも出荷できる牛乳なんてものが存在することにビックリ。「想いやり牛乳」と言う商品を見て知ったのですが、商業的に大量の牛乳を搾るために牛にかかるストレスが牛の脱糞を引き起こし、それが牛乳の汚染に繋がるとか。だから、理想を言えばそういう安全な牛乳でミルクが作られていることが理想なのですが、1リットルが普通の牛乳で200〜250円で買えるものがこの牛乳は1リットル1500円ほど。
そうでなくても高いミルクが、安全な牛乳を原料にするととても一般の人が使える金額ではなくなりそうです。つまり、それほどコストを削減するために色々なことをしてようやく今の値段(それでも1年間ミルク育児をした場合、ミルク代は約10万円以上がかかります)に落ち着いていると考えても良さそうなのです。
そういう、牛乳を「人工乳」という赤ちゃんにとって安全なミルクとして出荷、販売するということはさらにどのような流通事情で売られているのか、またWHOのミルクなどの商取引のルールなども、その無謀なマーケティングによるミルク不買運動等の歴史とともに書かれています。
ミルクで育児をしているお母様にとっては、悲しい内容かもしれません。だからこそ、後でこのようにミルクの問題を知ってから悲しい思いをさせないためにも母子保健の支援に当たっているものには、必要以上のミルクを使用しないで済む育児指導をする責任があるのだと思います。
また、乳業会社さん達が赤ちゃんにとっての安全なミルクの販売を、大事な社会貢献として少子化が進んでも続けてくれることを祈ります。一部のお母様が一ヶ月検診を過ぎるまでかけておっぱいの分泌が増えること、そして色々な事情で母子分離での入院生活の子供がいることを考えると、安全なミルクの存在は欠かせないものなのですから。