赤ちゃんを職場に同伴したり、公共の場で授乳したりすることについての議論が活発です。女性の社会進出や母親の権利として語られることも多いですが、先月都内で開かれた集会では、赤ちゃんが食事をする権利という視点も、投げかけられました。
 「生後間もない乳児の胃袋の大きさはサクランボ大、生後1カ月でようやログイン前の続きくたまご大になるんです」「胃袋が小さいのですぐにおなかがすいてしまい、いつ泣き出すか分からない。生後1カ月だと、1日18回飲むのが当たり前の子どももいる」
 11月上旬、東京・渋谷で開かれたトークイベント「全日本おっぱいサミット」。産婦人科医の村上麻里さんが話すと、会場に集まった約150人が聴き入った。
 さらにジャーナリストの津田大介さんは、授乳は子どもの食事とし「赤ちゃんがちゃんと授乳されること、それもひとつの人権」と話した。
 すでに海外では「子どもの事情」も踏まえた仕組みになっているところがある。
 授乳に関する著書があるカウンセラーの本郷寛子さん(58)によると、米国の多くの州や台湾、英国、豪州など、公共の場での授乳が法律で保障されている国々では、乳を飲む「子どもの権利」としても捉えられているという。国連『子どもの権利条約』などが根拠になる。本郷さんは「日本では公共の場や職場で授乳をすると、その場を私物化しているかのように語られがち。授乳を我慢すると母親も乳腺炎になる場合があり、母子の生理として待ったなし、ということが理解されていない」と話す。
 豪州では昨年、連邦議会の議場内での授乳が認められ、今年、実際に授乳した議員も出た。
 1984年に公共の場での授乳が法律で守られるようになったが、現実にはその後も「授乳をしていると、人目につかない場所へ移動しなさいと言われ、多くの母親はトイレへ行くくらいしか選択肢が無かった」(本郷さん)という。そのため90年代に、男性がトイレの個室で食事をしているイラストが描かれたポスターによるキャンペーンが行われた。「You wouldn’t eat here. So why should a baby?」(あなたは、こんなところで食事しようとはしないですね。なぜ赤ちゃんはそうしなければならないの?)と問う、現・オーストラリア母乳育児協会の試み。その後、徐々に理解が広がっていった。
 ■「育児知る授業、必要」の声
 イベントを企画したライターで3人の子の母ちかぞうさん(43)は、ひと昔前まで子育てや授乳は日常にある当たり前の光景で、結果として赤ちゃんの権利も守られていたのでは、と感じている。「いち母親としての本音は、多くの人がストレス無く授乳を受け止めてくれること。否定的な意見を『不寛容だ』と断罪したり、母親を『ワガママ』だと決めつけたりする議論では問題解決にならない。必要なのは相互理解です」
 催しには、普段子どもと接していない人にこそ参加して欲しいと考えた。様々なテーマで発言を続ける男性ジャーナリストの津田さんや、乳房を写した作品が多い写真家の伴田良輔さんに出演を依頼したのも、色々な人に関心を向けてもらいたかったからだ。
 会場では体の仕組みや、外出先の授乳で苦労した体験談を紹介するなど、母子の実態に理解を深める一方、不妊治療中の女性にとっては、人の授乳をみるのはつらい場合があるなどと言及した。
 イベント終了後、子を持たない30代後半の女性は「赤ちゃんの欲しがるときがおっぱいの必要な時など、お母さんの思い通りにならないことを初めて知った。授乳服を使うなど互いに配慮や気遣いができれば」と話した。
 出産ジャーナリストの河合蘭さん(58)も、少子化やきょうだいが少なくなって育児を目にする機会が減るなか、他人の授乳に「ぎょっ」とするのは「自然な反応で、現代社会ではやむを得ない」と話す。日本助産師会が大学などで出張授業を行う例があるが、学校教育に出産や授乳の実情を学べるカリキュラムを設けるなど「理解を深める機会がもっと必要では」と提案する。(真田香菜子)