「母乳サイエンスミルク」と言う言葉の意味するところ

<明治乳業>商品名の「母乳サイエンスミルク」を削除 と言うニュースをご覧になったでしょうか。
 明治乳業は14日、発売中の粉ミルク「母乳サイエンスミルク明治ほほえみ」(930グラム、2630円)の商品名から「母乳サイエンスミルク」を削除することを明らかにした。「母乳と同じ成分と消費者に誤解を与える」として、日本母乳哺育(ほいく)学会など母乳の推進団体から指摘を受けたため。「限りなく母乳に近い商品という思いを込めた。誤解を招くとの認識とは異なるが、指摘は真摯(しんし)に受け止めたい」(広報)と変更を決めた。

 97年に商品名「ほほえみ」として発売したが、昨年3月にリニューアルした際に「母乳サイエンスミルク」の名をつけ加えた。1月出荷分からすでに名前を変更しているが、出荷済みの商品はそのまま発売する。【小原綾子】(毎日新聞)
という思いでの決定だそうです。


これはどういうことなのでしょうか。
ミルクの成分が赤ちゃんにやさしいものに近づくためには、母乳成分の研究とそれに合わせたミルクに入れる安全な成分の開発という本当に地道な努力が必要です。乳業会社さんの研究や商品開発に携わっている方々は、それぞれに「赤ちゃんに良い物、安全なものを!」と言う思いを持たれていることは確かです。ただBFH(ユニセフによる認定を受けた赤ちゃんにやさしい病院)では9割になる完全母乳率が、日本では今平均4割前後です。全体の5割くらいの赤ちゃんは、おっぱいだけで育つことができるはずなのに混合栄養又は人工乳栄養で育っているのが現状です。実際に必要なミルクの5〜6倍が市場では流通している状態とも言えます。


再度、乳業さんの
誤解を招くとの認識とは異なる
と言う言葉を見てみます。それは、自信をもって売れる商品が出来たので最高の名前を付けただけだ、と言うだけのことと捉えていいのでしょうか。
面倒くさい話しになりますが、WHO/UNICEFの第34回世界保健総会(1981年)で承認された「母乳代用品の販売・流通に関する国際基準」と言うものがあるのですが、その中に、
(6) 赤ちゃんの絵を含めて、製品のラベルには人工哺育を理想化するような言葉あるいは絵を使用してはならない。
(10) 母乳代用品の製造業者は、その国が国際基準の国内法制を整備していないとしても、国際基準を遵守した行動をとるべきである。 
と言う条項が有るのをご存知でしょうか。乳業会社さんとしては「母乳の素晴らしさをお手本に努力してかなり安全で安心なミルクの開発が出来ました」という気持ちで「母乳サイエンス」と言う名前をつけたのでしょうけど、それを買うママ達が「あら、母乳に足りないものも足してくれてるのかしら。それならちょっとくらいお金を出しても素晴らしいわ」と、感じたならば、、、「母乳より素晴らしいミルク」というイメージを生みだすことに成功するわけで、「誤解」でなくて「国際基準違反」となります。


そううるさいことを言わなくても、、、と捉えるのか、ルールはルールとして遵守する法治国家であること(マンション強度偽装問題や、東横インでの条例違反などルールを無視したために起きている問題の例は後を絶たないかと思います)を守りながら、母乳をあげられなかったりおっぱいが足りなかったりしてミルクが必要なママが安心して与えられるミルクをこの少子化の時代だろうとミルクから儲けが出せなくなったとしても乳業会社さん達が良心と社会貢献への熱意できちんと販売し続けていく努力をするのか。(ミルク販売は、少子化の時代には儲けにならないにも関わらず、一部の赤ちゃんにとっては生きるのに必須の物でも有るのです)


おっぱい、と言う身体の中から出てくる液体で赤ちゃんが命を繋ぐ不思議は、育児という楽しくも大変な作業のなかで母に自分の身体に自信を持たせていき、また身体の自信はこころの自信となって穏やかで前向きな気持ちで育児する助けとなっているのをいつも目の当たりにしてきています。でも、おっぱいは出すのにとても苦労するのに、出なくなるのはアッと言うま。と言うママ達がとても沢山いらっしゃいます。

ちょっと足りないおっぱいを理想的に補助できるミルクの量や回数はまだマニュアルすら有りません。大抵はミルクを足しすぎて混合栄養が2〜3ヶ月続くとおっぱいが出なくなってミルク栄養になってしまいます。成分は「サイエンス」なミルクならかなり研究されて母乳に近づいてきているのだからと思う時に、おっぱいライフでママが四苦八苦して乗り越えていくコミュニケーションの取り方の難しさの問題をミルクを飲んでぐっすり寝てくれる赤ちゃんでは気付かずに後送りしてしまうことが有って、本当はどのように赤ちゃんと付き合っていくことで赤ちゃんとの満たされたコミュニケーションができるかを教える人がいない事実に、最近の子供たちの問題行動の種が隠れているように感じる私は考え過ぎなのかもしれません。

また、発展途上国だけでおっぱいが赤ちゃんの命を救うのでなくて、先進諸国でもやはり母乳で育った子供たちは中耳炎や肺炎になりにくいと言います。アメリカなどでは生活習慣病が社会問題として重くのしかかる問題の解決の糸口として、母乳研究に力が注がれています。


良質なミルクを守るためには「国際基準」なんか遵守してたらミルク会社その物がつぶれてしまいますからね。と乳業会社さんが思うのか、「ミルクは社会貢献の部分」だから、社会貢献を続けられるように他の部門で利益があげて行こうと思います、と思うのか、は、「未来」の姿も変えていく大きな問題なのだと私は感じています。

まずは、名前の変更から生まれる面倒を知りながらもこの決定をした明治乳業さんの英断を評価します。そして、おっぱいライフのママ達をともに支えていける未来の形が有るのではないか、と期待してみます。
by Dr-bewithyou | 2006-02-14 23:17 | 情報メモ | Comments(0)

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